エッチングと化成
1. はじめに
- 弊社のアルミニウム電極箔はアルミ電解コンデンサ用の材料を主用途として製造をしております。
- アルミ電解コンデンサには陽極箔と陰極箔として2種のアルミニウム電極箔が使用されます。
- アルミ電解コンデンサにおいて電極箔は誘電体の役割を担うため、より表面積が広いものが求められます。(製品応用分野参照)
- 弊社のアルミニウム電極箔はエッチングによる表面積拡大、化成による誘電体皮膜生成が行われたものです。
2. エッチングによる表面積拡大
同一投影面積のアルミ箔の表面積を拡大するために、アルミ箔表面を溶解させる手法がエッチングです。
金属をエッチングする場合、酸・アルカリを用いた化学的腐食が一般的です。しかし、弊社では面積拡大の効率や制御の観点から電気化学的なエッチングを用いています。電気化学的なエッチングをすることでアルミ箔の表面積は原箔対比で低圧用は約100倍以上、高圧用は約20倍以上に達します。
図-1はエッチング工程の簡易的な図です。
エッチングはアルミ箔を材料として最初に箔の脱脂や自然酸化皮膜除去による表面状態均一化の前処理を行います。酸・アルカリ・有機溶媒を用いた化学洗浄、または電解洗浄が一般的で、終了後は十分水洗を行います。
前処理の後、アルミ箔表面を溶解させるエッチングを行います。エッチングはエッチング溶液中で、電気を印加することで行われます。エッチング溶液は塩酸、食塩などの塩化物水溶液が用いられることが一般的です。溶液の温度、濃度、pH、電流の密度、印加量、通電する電極の構造等、エッチングの結果に影響を与える要素は多数あります。
エッチングは交流電流を用いたACエッチングと直流電流を用いたDCエッチングの2つがあります。
図-2と図-3はそれぞれのエッチングによる構造図です。
ACエッチングは交流電流の極性が変わる度に、エッチングの開始と停止を繰り返すため、小さなピットが多量に連なっていく構造をとります。そのため表面積拡大に優れますがピットのサイズは非常に小さく、後述の化成工程で誘電体皮膜生成の際に高い電圧域ではピットが化成皮膜で埋まり(目詰まりを起こし)、拡大した表面積を活かすことが出来なくなります。そのためACエッチングは皮膜厚の薄い低圧用の陽極箔や陰極箔で使用されます。
DCエッチングはエッチングが開始されると、エッチングが深さ方向に進行しトンネル状の整列した構造となります。ACエッチングのピットと比較して径が大きくピットが長いため、高電圧域の誘電体皮膜を生成してもピットが埋まりにくく、中圧、高圧用の皮膜厚が厚い陽極箔に使用されます。
エッチング後、エッチング時に発生したアルミニウム粉や塩素イオン等の不純物を除去するための後処理が行われます。その後十分に純水洗浄を行ってから乾燥後、巻き取られます。
なお、エッチング直後の箔表面は水分と反応性が高く、後処理や水洗で反応の抑制、安定化を図っています。安定化処理を行っているものの、エッチド箔を過度に高温多湿な環境下で保管した場合、その特性を十分に発揮できないだけでなく、水分との反応で熱を発生する場合もあります。保管には細心の注意を払う必要があります。
3. 化成による誘電体皮膜生成
アルミ電解コンデンサの誘電体となる酸化皮膜を形成するのが化成工程です。エッチングにより表面積を拡大したエッチド箔を材料として連続的に陽極酸化を行うことで酸化被膜を生成します。
図-4は化成工程の簡易的な図です。
化成液中でエッチド箔を陽極として陽極酸化を行います。一般的なアルミニウムの陽極酸化(アルマイト皮膜生成)は硫酸、クロム酸、シュウ酸のような化成電解液中で陽極酸化することで得られます。しかしアルマイト皮膜は多孔質で分厚くアルミ電解コンデンサ用の誘電体皮膜には不向きです。
そこで、弊社ではホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、有機酸アンモニウムなどの中性に近い化成液中で陽極酸化しています。これにより得られる皮膜は薄く、高い絶縁耐圧を持つためアルミ電解コンデンサ用の誘電体皮膜に適しています。
化成は1段方式や多段方式があり、多段式は数段に分けて段階的に陽極酸化電圧を上げることで安全かつ効率的に目的電圧までの陽極酸化が望めます。また、高電圧の陽極酸化を行う場合には陽極酸化を行う前に純水中で煮沸することで箔表面に擬似ベーマイト皮膜(AlOOH)を形成させ、耐電圧の高い結晶性皮膜を得ると同時に更なる消費電力の削減や化成自体の高速化も可能となります。最終的に、漏れ電流が十分に小さくなるまで陽極酸化された箔は水洗・乾燥された後に巻き取られます。これでアルミ電解コンデンサ用の電極箔が完成します。